ユーザー中心設計におけるアクセシビリティ: ユーザーグループのプロフィール
ユーザーグループのプロフィールは、「アクセシビリティの分析」の章でユーザー分析を行う際に作成します。
本セクションでは、下記に関する情報を提供しています。
例の中で特にアクセシビリティに関連する箇所は、ハイライト表示すると同時に、スクリーン・リーダーのユーザーおよび画像が見えないその他のユーザーのために、「ハイライト開始」および「ハイライト終了」の代替テキスト(ALT
)を用いた透明な画像で囲んでいます。
背景: ユーザー中心設計(UCD)におけるユーザーグループのプロフィール
ユーザビリティに関する2つの最も重要な問題は、ユーザーのタスク、そして[ユーザー]ひとりひとりの特徴と違いです[1]。
ユーザーグループのプロフィールは、製品のユーザー、つまり、製品を使用する人の特徴を示しています。たとえば、Webベースのオフィス製品の場合、ユーザーグループに関して定義される特性には、下記の詳細情報が含まれます。
- 人口統計データ
- 職務の責任と役割
- 使用頻度(たとえば、毎日、週数回、月に1度、年に1度)
- ハードウェア(たとえば、ノートブックかデスクトップか、CPU速度、ディスプレイの解像度)
- 環境(たとえば、共用オフィス、個人オフィス、共用公共端末、自宅)
- ソフトウェア(たとえば、オペレーティング・システム、ブラウザのバージョン)
- コンピュータ使用経験
- Webアプリケーション使用経験(たとえば、ユーザーがクリック可能な要素を認識するか否か)
- タスクの知識(すなわち、アプリケーション自体の理解に対して、自分のタスクをどの程度理解しているか)
新製品に関してユーザーグループのプロフィールを作成する場合の情報源として、一般的な市場調査、競合会社の製品の顧客、フォーカスグループセッション、およびユーザーとなりうる人へのインタビューおよびその観察が含まれます。既存の製品の改善におけるユーザーグループのプロフィールは、調査、フォーカスグループ、コンテクスチュアルインタビュー、製品の現バージョンのユーザビリティ・テストに基づいて作成することができます[2]。
ユーザーグループのプロフィールを作成する最初のタスクは、ユーザーグループの定義です。通常、特定の製品のユーザーは、いくつかに分類されます。たとえば、人事管理データ(従業員の記録、報酬、手当てなど)を扱うWebベースのアプリケーションには、人事マネージャー、人事スペシャリスト、人事管理アシスタント、人事以外のマネージャー、人事以外の管理アシスタント、従業員、退職した従業員などのユーザーグループがあります。
一般に、ユーザーグループのプロフィールは、すべてのユーザーグループに関して作成するのではなく、主なユーザーグループおよび設計者が良く知らないユーザーグループに関して作成されます。多くの設計者は、アクセシビリティの問題をほとんど、あるいはまったく知らずに設計を開始するため、ユーザーグループのプロフィールにアクセシビリティへの配慮を追加することは特に重要です。
ユーザーグループのプロフィールにおけるアクセシビリティへの配慮
障害者は、あらゆるユーザーグループに潜在的に含まれるため、アクセシビリティへの配慮は、すべてのユーザーグループのプロフィールに適用されます。既存の製品を再設計する場合、「当社の製品のユーザーに障害のあるユーザーはいない」という落とし穴に陥らないように注意してください。使い勝手の悪い既存の製品には障害者のユーザーがいない可能性が高いですが、使いやすく設計すれば、障害者もその製品のユーザーになるかもしれません。
もう1つの避けるべき落とし穴は、障害者がどのような製品を望むか望まないかを推測して判断することです。たとえば、あるケースでは、設計者が、目の見えない人がコピー機を使用する訳がないと決めてかかったことがありました。しかし、目の見えない人でも、他の人のためにコピーしたり、本のページをスキャンして音声読み上げソフトウェアに取り込んだりするために、コピー機を使用するかもしれません。
あるユーザビリティ・テスト参加者で、ロービジョンの人が自分の妻のために自賠責保険を比較しているときに、Webサイトの使い勝手が悪いことにいらいらしたのですが、「運転しない人は自動車保険に入らないと決めてかかっているようだ」と言っていました。
場合によって、他の特徴では主要なユーザープロフィールに該当しない場合でも、障害者が実際には製品の潜在的なユーザーとなることがあります。一部の障害者は、ハイエンドの製品にしか組み込まれていない機能を必要としています。たとえば、音声による指示およびインデックス作成の機能が備わっている、企業の管理者向けに設計されたデジタルレコーダは、目の見えない学生が使用したいと思うかもしれません。
アクセシビリティへの配慮を特定のユーザーグループのプロフィールにどの程度含めるかは、いくつかの要因、たとえば、ユーザーグループの年齢によって異なります。「年長者」あるいは「定年退職者」のユーザーグループには、たとえば下記に示す年齢に関わるアクセシビリティへの配慮が含まれるでしょう。
- 人口統計データ: 加齢に関係する障害に関する統計
- 使用頻度: 高齢者の短期的な記憶力の損失に関する情報は、設計に求められるメモリ負荷に影響するでしょう。
- ハードウェア: マウスを使用したり、小さなボタンを押したりすることが困難になる、加齢に関係する微細な運動制御の問題に関する情報
- ソフトウェア: 加齢に関わる視覚障害に関する情報。オペレーティング・システムやソフトウェア(たとえばWebブラウザ)に大きなフォントセットを用意している人や、拡大表示ソフトウェアやスクリーン・リーダーを使用している人がいるかも知れません。
「データ入力者」が1つのユーザーグループであるソフトウェア製品の場合、次のようなアクセシビリティへの配慮が必要かもしれません。
- ソフトウェア: 障害者が製品と一緒に使用している支援技術に関する情報
- 環境: 在宅勤務あるいは自宅で製品を使用する運動機能障害のあるユーザーに関する情報
- コンピュータの体験: ユーザーの支援技術(たとえば、スクリーン・リーダー、拡大表示ソフトウェアなど)の経験のレベルに関する情報
ユーザーグループのプロフィールの詳細な例
次の「ユーザーグループのプロフィール例」のセクションでは、アクセシビリティが考慮されているユーザーグループのプロフィールを示しています。
参考文献
- Nielsen, J. Usability Engineering. Boston, Massachusetts: Academic Press, 1993.
- Dumas, J.F. and Redish, J.C. A Practical Guide to Usability Testing. Portland, Oregon: Intellect Ltd, 1999.
本セクションの一部の情報は、下記の文献として既に出版されています。
- Henry, S.L., Martinson, M.L., and Barnicle, K. Beyond Video: Accessibility Profiles, Personas, and Scenarios Up Close and Personal. Proceedings of UPA 2003 (Usability Professionals' Association annual conference), 2003.