ユーザー中心設計におけるアクセシビリティ: ユーザビリティ・テストの実施
「アクセシビリティの評価」のページでは、標準のレビュー、ヒューリスティック評価、設計ウォークスルー、および障害のあるユーザーによる非公式の評価を含め、アクセシビリティを一般的な評価方法に含めるためのガイダンスを示しています。ユーザビリティ・テストのセクションは、障害者が参加するユーザビリティ・テストの概要です。
適切なユーザビリティ・テストの実施に障害者を参加させる場合、次のことを考慮する必要があります。
本セクションの考慮事項の中には、参加者、製品、その他のパラメータにより、特定のユーザビリティ・テストに当てはまるものと当てはまらない場合があります。本書の末尾近くの「参加者のリクルート条件」では、どの考慮事項が参加者のニーズに適用されるかを知るための質問を挙げています。
推測を避けること、助ける前に尋ねること、障害者に話しかけ障害者について話すこと、その他の注意点に対するガイダンスに関しては、「障害者との対話」を参照してください。
テストルーム内の配置
テスト場所に障害物がないことをチェックすること。特に視覚障害のある参加者にとって危険となる電源コード、ケーブル、ワイヤーがないか探してください。
車椅子の参加者が入る直前、私は、誰かがテストルームへつながる廊下に箱を積み立てたため、車椅子が通る十分なスペースがないことに気付きました。
目の見えないあるいは視覚障害のある参加者に対する特別な配慮
- 参加者の自宅や職場では、モノを移動する前に必ず尋ねてください。目が見えない人は、本人が慣れている場所と違う場所に椅子などがあるとぶつかることがあります。ユーザビリティ・テストが終わり、何かモノを移動する場合(許可を得て)、元の場所に戻してほしいかどうか参加者に尋ねてください。
- スクリーン・リーダーの音声出力を録音してください。スクリーン・リーダーが聞こえるように、音声録音機器を近くに置いてください。できれば、参加者の声とスクリーン・リーダーの音声を録音するのにそれぞれ別の機器を用意してください。参加者の話す声が、スクリーン・リーダーの音声にかぶって聞こえなくなることがよくあります。別々に録音すれば、データを分析したり、ハイライト部分を集めたテープを作成したりする場合に音量調整が可能です。
- キーボードが見えるようにしてください。参加者がスクリーン・リーダーを使用している場合、進行役がキーボードを見ることができ、スクリーン・リーダーを聞くことができるようにテストルーム内の配置を行ってください。進行役は、キーボードが見えれば、たとえば参加者がナビゲーションを行うためにTabキーを使用しているのか、矢印キーを使用しているのか、あるいはページ全体をスクリーン・リーダーに読ませているのかが良く分かります。ディスプレイに中心となって表示されているものは、スクリーン・リーダーが読んでいる内容と必ずしも一致しないため、ディスプレイだけを見ると混乱する可能性があります。キー入力の記録についても検討してください。
- ビデオを広角撮影に調整してください。スクリーン・リーダーを使用している参加者は、ディスプレイの前の一箇所に留まっていません。参加者がちょっと動いても画面から外れないように、始める前にビデオカメラを調整しておいてください。
- 参加者の自宅や職場にスピーカーや照明を持って行ってください。スクリーン・リーダーのユーザーの中には、ヘッドホンを使用して、スピーカーを使用していない人もいます。また、目の見えない人は、部屋を十分に明るくしていないかもしれません。特にビデオテープで録画する場合は、照明を持っていくことを検討してください。
以前、参加者の自宅でテストを行っているとき、最初は十分な日光が部屋に入っていましたが、日が暮れるとは暗くなり、テスト用紙もメモも見えなくなりました。最終的に、部屋の電気のスイッチを入れてよいか参加者に尋ねましたが、電球が切れていることに気付きました。参加者は目が見えないため、照明が点かないことを知らなかったのです。
耳の聞こえないあるいは聴力に障害のある一部の参加者に対する特別な配慮
- 通訳が座る場所を用意してください。通訳が立ち会う場合、進行役の近くや参加者の真向かいなど、通訳が別の場所に座るためのスペースを用意してください。
- 読唇術を用いる参加者のために、参加者と進行役の間に障害物がないように座席を配置してください。参加者と通訳が共にテストしやすいように座席を調整するように、双方に促してください。
- 読唇術を使用する参加者が進行役の唇および顔の表情を簡単に読み取れるように、部屋の照明を十分に明るくしてください。
- 状況に応じて参加者と通訳の両方の声を記録してください。参加者がまったく話さない場合は、通訳のみを、参加者がある程度話す場合、おそらく両者の録音を希望されるかもしれません。通常は、通訳をビデオ映像に収める必要はありません。
身体に障害のある一部の参加者に対する特別な配慮
- 車椅子が接近したり、動き回ったりするのに、また車椅子のままでコンピュータ、テーブル、その他参加者が製品を使う場所に行くことができるのに十分なスペースを用意してください。
参加者に対するオリエンテーション
キーボード、マウス、スピーカーなど、テストで使用する機器のセットアップに慣れるように参加者に促してください。快適に参加できるよう、機器、椅子などを調整するように促してください。支援技術がユーザビリティ・テストで使用される場合、参加者が設定をチェックし、必要であれば変更するための時間を確保してください。
目の見えないあるいは視覚障害がある一部の参加者に対する特別な配慮
- 参加者に近づくときには、自己紹介してください。参加者が自分の声を認識できると思い込まないでください。誰が部屋にいるのか参加者が分かるように、一緒にいるほかの人を紹介してください。
- ドアの場所やビデオカメラの位置など、参加者に対して物の配置を簡単に説明してください。特に人の出入りがあり、ビデオカメラの音がすると思われる場合は、そうしてください。
- 異常な音、あるいはビデオテープの記録開始や交換の前など、何らかの操作を行う場合は、その説明をしてください。ほとんどのビデオカメラは、録画開始や停止の際に音がするため、参加者がその音のせいで気が散ってしまう可能性があります。自分や他の人が部屋を出入りするときも参加者に伝えてください。
- 参加者に手を貸すために肘を差し出してください。参加者の腕、手、あるいは杖をつかまないでください。
- どこに座るべきか指示を出してください。通常、口頭で指示を与え、体に触れないことがベストです。参加者の手に触れて椅子まで持ってきたほうが良いかどうかを本人に尋ねてください。
- 盲導犬や介助犬に話しかけたりしないでください。盲導犬を撫でてよいか尋ねないでください。犬に話しかけないでください。盲導犬がハーネスを付けている場合、それは飼主をガイドし保護する役目を負っています。どのような形であれ犬の気を散らさないことが重要です。
あるセッションが終了した後、参加者の1人は、われわれが盲導犬に触れることができるように、ハーネスをはずしてくれました。これは、行儀よくしていたこと、つまりわれわれが犬に触れたいという気持ちを抑えて行儀よくしていたことに対するご褒美でした。
- 盲導犬のためにスペースがあることを参加者に伝えてください。同時に、参加者と犬は違う位置にいるほうが快適な場合があることに注意してください。
耳の聞こえないあるいは聴力に障害のある一部の参加者に対する特別な配慮
- 会話を開始する前に参加者の注意を引いてください。目を見て参加者の名前を呼ぶ、あるいは参加者の肩や腕に軽く触れてください。
- 順番に話してください。読唇術を使用している人は、複数の人が同時に話すと情報を見逃すことがあります。
- 通訳がきちんと伝えることができるようにわかりやすく話してください。できる限り正確に通訳し、説明を付け加えないことが大切であることを通訳にはっきり伝えてください。
身体に障害のある一部の参加者に対する特別な配慮
- 本人の許可を得ずに、歩行補助具を動かさないでください。歩行補助具を使用している人の中には、手が届く場所にないと、気が落ち着かない人がいます。
- 「ユーザビリティ・テストの準備」のセクションの「アクセシブルな場所の確保」で説明したように、個人的な付添い人が座る場所を必ず提供してください。
事務手続き
「ユーザビリティ・テストの準備」のセクションの「テスト資料の作成」で説明したように、テスト前に同意書およびその他の「ペーパーワーク」が送付された参加者が、既に署名したものを持ってくることがあります。
目の見えないあるいは視覚障害がある一部の参加者に対する特別な配慮
- 参加者のリクルートで要求されたとおりに、参加者が好むフォーマットでドキュメントを提供します。点字を早く読める人もいれば、読むのが非常に遅い人もいます。時間を有効に使用するために、ドキュメントを読み上げて点字版は参考のために提供する方法でよいか参加者に尋ねることもできます。中には、他の人に読んでもらうのではなく、自分で点字を読みたい人もいますので、対応できるように準備してください。
参加者の中には、われわれが口頭で読み上げるよりもはるかに早いスピードで2ページの点字を読む人もいましたが、同じ点字のドキュメントを読むのに25分かかった人もいました。
- 署名する場所を示してください。目の見えない参加者の中には、署名スタンプを持っている人もいれば、署名補助具(署名するときにガイドとして使用する小さな道具)を持っている人もいます。目の見えないあるいはロービジョンの参加者が、署名する場所が分かるように、署名補助具や端部分がまっすぐなものを置けるように準備してください。
身体に障害のある一部の参加者に対する特別な配慮
- 署名するドキュメントを固定するためにクリップボードを準備してください。参加者が署名できるように、同意書およびその他のドキュメントを固定できるようにしてください。たとえば、上半身の動きが限られている参加者は、ペンを口にくわえて署名できるように、ドキュメントを固定してもらいたいと思うかもしれません。
タスクの完了
障害者の中には、助けを借りることなく、タスクを完了したいという強い希望を持ち、助けを期待していないときにしていることを中断されるのをわずらわしく思う人がいます。セッションの最初に、タスクが完了する前にタスクが中断される可能性があることを参加者へ伝えてください。たとえば、「タスクに関する十分な情報が得られたら、皆さんが終わっていなくても、次に進むことがあります」といったように伝えることができます。また、タスクを中断するときに使用する表現も考慮してください。「時間の都合によりここで止めます」ではなく、「ここで止めて、次に新しいことをやりましょう」といった表現を使用することを考えてください。
タスクをスムーズに進行するための代替テクニックを準備してください。ユーザビリティ・テストおよびフォーカスグループをスムーズに進めるためには、通常、ちょっとしたコミュニケーションが必要です。テクニックの中には、障害のある参加者にはうまくいかないものがあります。たとえば、ボディランゲージは、目の見えない参加者や自閉症のある一部の人にはうまく行きません。また、耳の聞こえない参加者の場合、対話の少ないセッションでは参加者の質問に答えないというテクニックは、うまく行きません。
目の見えない参加者のフォーカスグループでタスクをスムーズに進めたいと思っていましたが、アイコンタクトやボディランゲージが役に立たないことが明らかになりました。私は、同じことを口頭で伝えるための戦略を考えなければなりませんでした。
目の見えないあるいは視覚障害がある一部の参加者に対する特別な配慮
- ユーザビリティ・テスト・プロトコルにしたがってスクリーン・リーダーのスピーチ速度を要求してください。通常、スクリーン・リーダーのユーザーは、読み取り速度を早く設定しており、スクリーン・リーダーを聞き慣れないほとんどの人は、早すぎて聞き取ることができません。スクリーン・リーダーの高速読み取りの例を、「スクリーン・リーダーの紹介」のビデオの最後で聞くことができます。製品がどのように使用されているかを理解したい場合、参加者に読み取りの速度を遅くするようにお願いする必要があることがあります。ほとんどのスクリーン・リーダーのユーザーは、遅い速度でも気にしませんが、中には長時間、遅い速度で聞くといらいらする人もいることに注意してください。時間期限のあるタスクを測定するためのユーザビリティ・テストでは、スクリーン・リーダーは、参加者が通常使用する速度に設定すべきです。
耳の聞こえないあるいは難聴の一部の参加者に対する特別な配慮
- 話すときは参加者の方を向いて、同じ目線で話してください。耳の聞こえない人あるいは聴覚障害のある人の多くは、少なくとも部分的に読唇術に依存しており、話す人の唇を見る必要があります。話しているときに下を向いたり、口をふさいだりしないようにしてください。参加者が座っているときは、可能な限り自分も座って話しかけてください。
- はっきりとした口調で話してください。早口で話さないでください。
- 同じ表現を大きな声で繰り返さないでください。補聴器や人工内耳を使用している人の中には、大きな声に特に敏感な人がいます。参加者が言葉をうまく聞き取れない場合は次の対応を試みてください。
- 表現を変えてみてください。難聴の人の中には、部分的に読唇術に依存している場合もあります。というのは、補聴器を付けていても聞き取りにくい音声があるからです。読唇術のほうが分かりやすい言葉もあります。表現を言い換えるほうが参加者にとって理解しやすい場合があります。
- 話している内容を書いたほうがよいか尋ねてください。
- パーソナルスペースを確保しつつ、参加者の近くに寄ってください[1]。
データ収集
報告を聞くのは、テスト全体が終了した後ではなく、各タスクの後にします。これは、タスクに長時間使った参加者、短期的な記憶力を失っている高齢者、および大量の情報を処理するのが困難な認知障害のある参加者の場合に役に立ちます。
言葉障害のある一部の参加者に対する特別な配慮
- 注意深く話を聞き、必要であれば、確認のために参加者に繰り返してもらってください。参加者の言っていることが理解できなかったら、繰り返してもらうか、説明を求めてください。理解できていないときに理解したふりをしないでください。相手の話を中断したり話を終わらせてしまうのではなく、参加者が話し終えるまで待ってください。参加者が話すのが困難な場合、自分が理解できた部分を繰り返すと、理解できなかった部分だけをもう1度言ってもらうことができます。
- 文字を使ったコミュニケーションを提案できるように準備してください。参加者の中には、タイプ入力あるいは文字でのコミュニケーションを好む人がいるかもしれません。
- 付添い人は、参加者が言ったことを正確に繰り返す必要があることをはっきりと伝えてください。参加者の話に慣れた付添い人やその他の人は、参加者が言っていることを明確に言い直すことがありますが、その場合、参加者のコメントについて説明することがあります。参加者が言ったことだけを述べることの重要性を伝えてください。
耳の聞こえないあるいは難聴の一部の参加者に対する特別な配慮
- 通訳は、参加者が手話で言ったとおりに翻訳する必要があることをはっきりと伝えてください。通訳に対して、できる限り正確に翻訳し、説明を付け加えないことの重要性をはっきりと伝えてください。
報酬の提供
目の見えないあるいは視覚障害がある一部の参加者に対する特別な配慮
- 参加者に謝礼を現金で支払う場合、どんな通貨を手渡すかを伝えてください。通常、視覚障害のある人は、分かりやすいように紙幣を特定の方法で折り曲げています。
- 参加者に謝礼を小切手で支払う場合、参加者の名前が正しく書かれていることを確認してください。
われわれは、小切手で参加者の名前のスペルを間違っていましたが、本人は、現金化しようとするまでそれに気付きませんでした。われわれは、小切手を再発行しなければならず、本人はもう1度銀行へ行かなければなりませんでした。
次のセクションでは、障害者が参加するユーザビリティ・テストにおける分析および報告に関して説明します。
参考文献
- Communicating with People Who Have a Hearing Loss(訳注:PDFファイル). Alexander Graham Bell Association for the Deaf and Hard of Hearing, 1996.