ユーザー中心設計におけるアクセシビリティ: 評価
ユーザー中心設計(UCD)を成功させる要点の1つは、初期段階で全体的にUCDプロセスを評価することです。「背景: アクセシビリティとユーザー中心設計(UCD)」の章では、ユーザー中心設計プロセスについて紹介しています。
本セクションでは、アクセシビリティを下記の評価方法に組み込むための情報を提供しています。
「補遺: 参考文献」の「アクセシビリティ評価ツールおよびテクニック」では、特定の製品のアクセシビリティに関する方法を含め、アクセシビリティの評価に関するその他の参考文献を挙げています。
包括的なアクセシビリティ評価の重要性
アクセシビリティ評価は、アクセシビリティの標準への準拠をチェックするだけに留まってしまうことがよくあります。アクセシビリティの標準へ準拠することは重要です。それが法的要件の場合もあれば、アクセシビリティの問題を適切に網羅していることをチェックする方法でのみ使用されていることもあります。しかし、アクセシビリティの技術的な側面だけを重視していると、人との対話の側面が失われてしまう場合があります。ユーザビリティの評価方法を使用することにより、障害者がそのアクセシビリティ・ソリューションを使用しやすいかどうかを評価することができます[1]。
米国セクション508の標準に準拠する必要のある設計者の中には、「操作および情報の検索の代替モード」を提供することを選ぶ人もいます。しかし、標準を技術的に満たすために代替モードを提供する場合、製品が使いにくくなり、一部の障害者がまったく使用できなくなることもあります。このようなケースは、十分な評価を行わずして、最低限のアクセシビリティの標準に遵守するだけで満足してはならないことを示しています。
効果的なアクセシビリティの評価を行うためには、評価の専門家と障害者を参加させなければなりません。設計者は、同じビルで働く従業員など、評価に参加してもらう障害者がすぐに手配できれば、設計プロトタイプの初期段階で、数多くの非公式の評価を行いたいでしょう。しかし、通常、評価のために障害者を手配することは簡単ではないため、設計者はおそらく、最初に他の評価方法を使用したいと思うでしょう。
予算が限られている場合は、設計者が自分で評価を行う必要があるかもしれません。あるいはアクセシビリティのスペシャリストを雇うことができるかもしれません。さまざまな障害を持つ人が製品をどのように使用するかに関して実際の体験を有するアクセシビリティのスペシャリストは、次のことができます。
- ユーザビリティ・テストに参加する数人のユーザーでは発見できない、さまざまなユーザーにとってのアクセシビリティの問題を評価すること。
- ユーザーを参加させる前に、既に分かっているアクセシビリティの障壁を取り除くこと。
- ユーザーが参加するユーザビリティ・テストあるいは非公式の評価で、懸念のある分野に集中すること。
各評価プランは、リソースやその他の要因により異なりますが、標準のレビュー、ヒューリスティック評価、設計ウォークスルー、スクリーニングテクニック、ユーザビリティ・テストなど、下記で説明するいくつかの方法を含めた包括的な評価方法を採用してください。
標準のレビュー
ユーザー中心設計プロセスにおける標準のレビューでは、製品が、指定されたインターフェース設計標準に準拠しているかどうかを評価します。標準は、スタイルガイドについての社内的な提言の場合もあれば、外部の標準の場合もあります。
アクセシビリティの標準およびガイドラインは、国際標準組織、国、州、地方の政府、業界団体、および個々の組織から入手することができます。「補遺: 参考文献」の「標準およびガイドライン」のセクションでは、アクセシビリティの標準、ガイドライン、および関連記事を挙げています。
アクセシビリティの標準のレビューは、一般に典型的なユーザー・インターフェースよりも厳しく行われます。特に、標準への準拠が法的要件の場合はそうです。また、ユーザー・インターフェース問題は、アクセシビリティの標準のレビューにおける技術的な問題と重なることがよくあります。アクセシビリティの標準への準拠に関する具体的なガイダンスは、本書の対象ではありません。
アクセシビリティ評価ツール
ソフトウェアツールは、Webページおよびソフトウェアのいくつかの要素を評価するために利用することができます。自動的なレビューを行うツールがいくつか提供されていますが、それでも人間による評価は必要です。
ほとんどのWebアクセシビリティ評価ツールは、WebページがW3C WAIの(WCAG)へ、場合によっては準拠しているかどうか、セクション508 パート 1194.22などの国内標準に準拠しているかどうかを評価します。ほとんどのツールは市販されていますが、いくつか無料のものもあり、中には限られた機能をオンラインで無料で利用できるものがあります。WAIが提供する下記の参考文献では、Webアクセシビリティ評価ツールについて説明しています。
- 「Webアクセシビリティ評価ツールの選択」は、Webアクセシビリティの評価に使用するツールを選ぶ場合のガイダンスを提供しています。また、ツールのさまざまな種類、使用、および機能を説明しています。
- 「Webアクセシビリティ評価ツール」は、20の言語での100以上のツールの包括的なデータベースです。
評価ツールは、アクセシビリティの問題の一部を発見することができますが、評価ツールだけでは、製品が標準に準拠しているか、またアクセシブルであるかを判断することはできません。ツールに何ができるかできないかを示す1つの良い例は、Webページ上の画像の同等の代替(alt)テキストを評価することです。この種のツールは、代替テキストがない画像を発見することができますが、既存の代替テキストが同等であるか否か(つまり、画像が視覚的に提供している同じ情報をテキストで提供しているかどうか)を判断することはできません。代替テキストが同等のものであるかどうかの判断は、人による評価が必要です。
Webアクセシビリティ評価ツールは、時間と労力を節約することにより、評価の効率性を高めることができますが、知識が豊富な人間の評価者に置き換わることはできません。ツールを人間による評価に代わるものと考えるのではなく、人間による評価を支援するものと考えてください[2]。
ヒューリスティック評価
ヒューリスティック評価では、スペシャリストが、各設計要素がユーザビリティ原則に準拠しているか否かを判断します
[3]。アクセシビリティのヒューリスティック評価を行うために、アクセシビリティのスペシャリストは、設計要素がアクセシビリティ原則に準拠しているか否かを判断します。
いくつかの参考文献では、アクセシビリティのヒューリスティック評価に関するガイダンスとして役に立つ情報が提供されています。
- 「Section 255 of the Telecommunications Act, Subpart C: Requirements for Accessibility and Usability」は、「体の機能の制限範囲の理解」のセクションに挙げています。
- 「Section 508 of the Rehabilitation Act Subpart C -- Functional Performance Criteria」は、下記に挙げています。
§ 1194.31 機能的な性能の基準(Functional Performance Criteria)
(a) 目が見えなくても操作および情報の検索ができるモードを最低でも1つ提供してください。あるいは、目が見えないあるいは視覚障害のある人が使用できる支援技術をサポートしてください。
(b) 視力が20/70(約0.3)以下でも操作および情報の検索ができるモードを最低でも1つ、音声や拡大文字またはその両方で提供しなければなりません。あるいは、視覚障害のある人が使用できる支援技術をサポートしてください。
(c) 耳が聞こえなくても操作および情報の検索ができるモードを最低でも1つ提供してください。あるいは、耳の聞こえない人あるいは聴覚障害のある人が使用できる支援技術をサポートしてください。
(d) 製品の使用において音声情報が重要な場合、音声を拡張して操作および情報の検索ができるモードを最低でも1つ提供してください。あるいは、補聴装置をサポートしてください。
(e) 言葉を発することができなくても操作および情報の検索ができるモードを最低でも1つ提供してください。あるいは、障害者が使用できる支援技術をサポートしてください。
(f) 優れた運動機能や同時動作を必要とせず、手の届く範囲が限られる人や力が弱い人も操作および情報の検索ができるモードを最低でも1つ提供してください[4]。
設計ウォークスルー
設計ウォークスルーの目的は、プロトタイプの初期のコンセプトにおいてユーザーの動作を思い描くことにより
、潜在的なユーザビリティの問題を発見することです[5]。通常、ある人がユーザーの代表として行動し、設計チームメンバーは初期のプロトタイプにおいて、その人を実際のタスクでガイドします。また、別のチームメンバーが、コンピュータや装置を操作して、ウインドウの紙製のモックアップ、ドロップダウンメニュー、ポップアップダイアログボックス、その他のインターフェース要素を変更します。
アクセシビリティを設計ウォークスルーに組み込む方法として、下記の方法があります。
- 一般的なウォークスルーにおいて特定のアクセシビリティの問題に的を絞る方法
- アクセシビリティのためのウォークスルーを実施する方法
一般的なソフトウェアウォークスルーにおいて特定のアクセシビリティの問題に的を絞る例として、装置に依存しない対話があります。設計チームは、ユーザーの役目の人が、マウスで実行できる操作に関して「これをクリックします
」というのを聞きます。次に設計チームは、マウスでできるすべての動作がキーボードで実行できることをチェックします。設計ウォークスルーにおいて特定のアクセシビリティの問題を評価するもう1つの例は、音声の使用です。消費者製品の使用に関してウォークスルーを行う場合、設計チームは、製品を使用しているチームメンバーが、音声を通してフィードバックや対話を行っているのを聞きます。
アクセシビリティのためのウォークスルーを行う場合、「ペルソナにおけるアクセシビリティ」および「アクセシビリティのシナリオ」のセクションで説明したように、障害のあるペルソナ、およびタスクを完了するための適応手段を含むシナリオを使用します。たとえば、ユーザーの役割をする人は、目の見えない人の役割をし、別の設計チームメンバーは、スクリーン・リーダーの役割を果たします。
高度なプロトタイプの設計ウォークスルーの場合、次に紹介するスクリーニングテクニックを使用することもできます。
スクリーニングテクニック
スクリーニングテクニックは、製品の設計において潜在的なアクセシビリティの障壁を発見するための簡単で安価な方法です。設計チームは、スクリーニングテクニックを使用して、アクセシビリティの問題に関して学び、プロトタイプや既存の製品を評価します。スクリーニングテクニックは、製品への変更が比較的安価にできる初期段階で障壁を発見し、障害者が参加する後のユーザビリティ・テストに集中できるため、時間とコストを節約できます。
スクリーニングテクニックのセクションでは、スクリーニングテクニックに関して詳しく説明します。
ユーザビリティ・テスト
ユーザビリティ・テストでは、実際のユーザーが製品を使用して実際のタスクを行うことにより定量的および定性的データが得られます。ユーザビリティの専門家は、障害者を参加させるために多少の変更を行い、標準のユーザビリティ・テスト・プロトコルを用いて、アクセシビリティのいくつかの側面を評価することができます。ユーザビリティ・テストは、人々が製品をどのように使用するかを学び、アクセシビリティ・ソリューションのユーザビリティを評価するのに役に立ちますが、アクセシビリティの標準に準拠しているかどうかの評価は行いません。
下記のセクションでは、障害者が参加するユーザビリティ・テストに関して説明します。
参考文献
- Henry, S.L. Another-ability: Accessibility Primer for Usability Specialists. Proceedings of UPA 2002 (Usability Professionals' Association annual conference), 2002.
- Henry, S.L. Web Accessibility Evaluation Tools Need People, 2003.
- Nielsen, J. and Mack, R., eds. Usability Inspection Methods. New York: John Wiley & Sons, 1994.
- Architectural and Transportation Barriers Compliance Board. Electronic and Information Technology Accessibility Standards. U.S. Federal Register, 2000.
- Rubin, J. Handbook of Usability Testing. New York: John Wiley & Sons, 1994.